令和6年1月15日公開
前節で、ポリオを公衆衛生法に感染症として規定したのはロックフェラー財団であることを述べた。では、日本ではどのようにして感染症法に感染症が規定されるのだろうか。病原ウイルスは単離できないのである。標本すら存在しない。何を根拠に法に規定できるというのだろうか。ここでは、この疑問について議論していきたい。
感染症法第6条には用語の定義等が書かれている。以下に全文を引用する。
(定義等)
第六条 この法律において「感染症」とは、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症をいう。
2 この法律において「一類感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 エボラ出血熱
二 クリミア・コンゴ出血熱
三 痘そう
四 南米出血熱
五 ペスト
六 マールブルグ病
七 ラッサ熱
3 この法律において「二類感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 急性灰白髄炎
二 結核
三 ジフテリア
四 重症急性呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る。)
五 中東呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスであるものに限る。)
六 鳥インフルエンザ(病原体がインフルエンザウイルスA属インフルエンザAウイルスであってその血清亜型が新型インフルエンザ等感染症(第七項第三号に掲げる新型コロナウイルス感染症及び同項第四号に掲げる再興型コロナウイルス感染症を除く。第六項第一号及び第二十三項第一号において同じ。)の病原体に変異するおそれが高いものの血清亜型として政令で定めるものであるものに限る。第五項第七号において「特定鳥インフルエンザ」という。)
4 この法律において「三類感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 コレラ
二 細菌性赤痢
三 腸管出血性大腸菌感染症
四 腸チフス
五 パラチフス
5 この法律において「四類感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 E型肝炎
二 A型肝炎
三 黄熱
四 Q熱
五 狂犬病
六 炭疽
七 鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザを除く。)
八 ボツリヌス症
九 マラリア
十 野兎病
十一 前各号に掲げるもののほか、既に知られている感染性の疾病であって、動物又はその死体、飲食物、衣類、寝具その他の物件を介して人に感染し、前各号に掲げるものと同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるもの
6 この法律において「五類感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)
二 ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く。)
三 クリプトスポリジウム症
四 後天性免疫不全症候群
五 性器クラミジア感染症
六 梅毒
七 麻しん
八 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
九 前各号に掲げるもののほか、既に知られている感染性の疾病(四類感染症を除く。)であって、前各号に掲げるものと同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして厚生労働省令で定めるもの
7 この法律において「新型インフルエンザ等感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 新型インフルエンザ(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザであって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
二 再興型インフルエンザ(かつて世界的規模で流行したインフルエンザであってその後流行することなく長期間が経過しているものとして厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
三 新型コロナウイルス感染症(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったコロナウイルスを病原体とする感染症であって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
四 再興型コロナウイルス感染症(かつて世界的規模で流行したコロナウイルスを病原体とする感染症であってその後流行することなく長期間が経過しているものとして厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
8 この法律において「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。
9 この法律において「新感染症」とは、人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。
10 この法律において「疑似症患者」とは、感染症の疑似症を呈している者をいう。
11 この法律において「無症状病原体保有者」とは、感染症の病原体を保有している者であって当該感染症の症状を呈していないものをいう。
12 この法律において「感染症指定医療機関」とは、特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関、第二種感染症指定医療機関及び結核指定医療機関をいう。
13 この法律において「特定感染症指定医療機関」とは、新感染症の所見がある者又は一類感染症、二類感染症若しくは新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させる医療機関として厚生労働大臣が指定した病院をいう。
14 この法律において「第一種感染症指定医療機関」とは、一類感染症、二類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させる医療機関として都道府県知事が指定した病院をいう。
15 この法律において「第二種感染症指定医療機関」とは、二類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させる医療機関として都道府県知事が指定した病院をいう。
16 この法律において「結核指定医療機関」とは、結核患者に対する適正な医療を担当させる医療機関として都道府県知事が指定した病院若しくは診療所(これらに準ずるものとして政令で定めるものを含む。)又は薬局をいう。
17 この法律において「病原体等」とは、感染症の病原体及び毒素をいう。
18 この法律において「毒素」とは、感染症の病原体によって産生される物質であって、人の生体内に入った場合に人を発病させ、又は死亡させるもの(人工的に合成された物質で、その構造式がいずれかの毒素の構造式と同一であるもの(以下「人工合成毒素」という。)を含む。)をいう。
19 この法律において「特定病原体等」とは、一種病原体等、二種病原体等、三種病原体等及び四種病原体等をいう。
20 この法律において「一種病原体等」とは、次に掲げる病原体等(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二十五第一項の規定による承認又は同法第二十三条の二の二十三第一項の規定による認証を受けた医薬品又は再生医療等製品に含有されるものその他これに準ずる病原体等(以下「医薬品等」という。)であって、人を発病させるおそれがほとんどないものとして厚生労働大臣が指定するものを除く。)をいう。
一 アレナウイルス属ガナリトウイルス、サビアウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス及びラッサウイルス
二 エボラウイルス属アイボリーコーストエボラウイルス、ザイールウイルス、スーダンエボラウイルス及びレストンエボラウイルス
三 オルソポックスウイルス属バリオラウイルス(別名痘そうウイルス)
四 ナイロウイルス属クリミア・コンゴヘモラジックフィーバーウイルス(別名クリミア・コンゴ出血熱ウイルス)
五 マールブルグウイルス属レイクビクトリアマールブルグウイルス
六 前各号に掲げるもののほか、前各号に掲げるものと同程度に病原性を有し、国民の生命及び健康に極めて重大な影響を与えるおそれがある病原体等として政令で定めるもの
21 この法律において「二種病原体等」とは、次に掲げる病原体等(医薬品等であって、人を発病させるおそれがほとんどないものとして厚生労働大臣が指定するものを除く。)をいう。
一 エルシニア属ペスティス(別名ペスト菌)
二 クロストリジウム属ボツリヌム(別名ボツリヌス菌)
三 ベータコロナウイルス属SARSコロナウイルス
四 バシラス属アントラシス(別名炭疽菌)
五 フランシセラ属ツラレンシス種(別名野兎病菌)亜種ツラレンシス及びホルアークティカ
六 ボツリヌス毒素(人工合成毒素であって、その構造式がボツリヌス毒素の構造式と同一であるものを含む。)
七 前各号に掲げるもののほか、前各号に掲げるものと同程度に病原性を有し、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある病原体等として政令で定めるもの
22 この法律において「三種病原体等」とは、次に掲げる病原体等(医薬品等であって、人を発病させるおそれがほとんどないものとして厚生労働大臣が指定するものを除く。)をいう。
一 コクシエラ属バーネッティイ
二 マイコバクテリウム属ツベルクローシス(別名結核菌)(イソニコチン酸ヒドラジド、リファンピシンその他結核の治療に使用される薬剤として政令で定めるものに対し耐性を有するものに限る。)
三 リッサウイルス属レイビーズウイルス(別名狂犬病ウイルス)
四 前三号に掲げるもののほか、前三号に掲げるものと同程度に病原性を有し、国民の生命及び健康に影響を与えるおそれがある病原体等として政令で定めるもの
23 この法律において「四種病原体等」とは、次に掲げる病原体等(医薬品等であって、人を発病させるおそれがほとんどないものとして厚生労働大臣が指定するものを除く。)をいう。
一 インフルエンザウイルスA属インフルエンザAウイルス(血清亜型が政令で定めるものであるもの(新型インフルエンザ等感染症の病原体を除く。)又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に限る。)
二 エシェリヒア属コリー(別名大腸菌)(腸管出血性大腸菌に限る。)
三 エンテロウイルス属ポリオウイルス
四 クリプトスポリジウム属パルバム(遺伝子型が一型又は二型であるものに限る。)
五 サルモネラ属エンテリカ(血清亜型がタイフィ又はパラタイフィAであるものに限る。)
六 志賀毒素(人工合成毒素であって、その構造式が志賀毒素の構造式と同一であるものを含む。)
七 シゲラ属(別名赤痢菌)ソンネイ、デイゼンテリエ、フレキシネリー及びボイデイ
八 ビブリオ属コレラ(別名コレラ菌)(血清型がO一又はO一三九であるものに限る。)
九 フラビウイルス属イエローフィーバーウイルス(別名黄熱ウイルス)
十 マイコバクテリウム属ツベルクローシス(前項第二号に掲げる病原体を除く。)
十一 前各号に掲げるもののほか、前各号に掲げるものと同程度に病原性を有し、国民の健康に影響を与えるおそれがある病原体等として政令で定めるもの
24 厚生労働大臣は、第三項第六号の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、あらかじめ、厚生科学審議会の意見を聴かなければならない。
このように「おそれがある」で感染症を規定することができることが分かる。したがって、科学的根拠は必要がなく、憶測で「おそれがある」と国が判断すれば感染症を法に規定できるのである。そして規定した結果、法律上では感染症の病原体が存在することになる。
恐らく、「おそれがある」で国が感染症を法に規定しているはずがない、と反論する御仁もおられるかもしない。そこで、新型コロナウイルスの例を使って、実際にどのように規定したのか見てみたい。
筆者は、令和5年9月29日付で厚生労働省に対して以下のような情報公開請求を行った。
新型インフルエンザ等対策特別措置法第3条第1項の規定では「新型インフルエンザ等が発生したとき」に国が感染症対策を実施する責務を有することになるが、新型コロナウイルス感染症においてこの感染症の「発生した事実」を示す根拠となる全ての文書の開示を請求する。
ただし、ここでの「発生した事実」とは、「病原体の存在を前提として発生していると考えられている事実」ではなく、「病原体の存在が確認された上で確実に発生したと断言できる事実」をいう。
この請求に対して、令和5年12月26日付で以下の文書が開示された。
この資料で重要なのは2頁の資料である。
筆者が請求したのは「発生した事実」を示す根拠である。それが2頁である。それ以外のページにはそれに相当する情報がない。この2頁に書かれている情報は、令和2年1月27日の検査陽性者数である。日本では4名であった。これが新型コロナウイルス感染症の「発生した事実」であると厚生労働省は判断したということである。
この資料のどこにも病原体についての情報が記載されていない。つまり、厚労省が感染症の発生を認めるにあたって、病原体の存在の確認の有無は関係ないことを意味している。要するに科学的に調査することもなく、検査陽性者数が0人ではないという理由で「発生した事実」と捉えているということである。それをこの資料が語っている。
更に注目すべきは、5頁である。「概要」の部分を以下に引用する。
○ 令和2年1月に問題となっている新型コロナウイルスについて、感染症法に基づく指定感染症及び検疫法に基づく検疫感染症に指定する。
感染症法に新型コロナウイルス感染症を規定することが書かれている。検査陽性者集が4人という根拠で、「おそれがある」と国は判断し感染症法に規定したということである。繰り返すが、病原体の存在は確認されていない。
新型コロナウイルス感染症に対する国の対応について、一般財団法人日本公衆衛生協が令和5年4月27日付けで発行した『令和4年度 地域保健総合推進事業 新型コロナウイルス感染症対応記録』に詳細が記載されている。本サイトにも、重要と思われる個所を抜粋して記録してある。
感染症への規定に関しては、この資料の43頁に次のように書かれている。
その後、本疾患は世界中に広がりを見せたため、WHOは2020年1月30日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PublicHealthEmergencyofInternationalConcern:PHEIC)を宣言した。同年2月1日には、新型コロナウイルス感染症は、わが国の「感染症法」に基づき指定感染症に指定された。
先の資料の2頁には令和2年1月27日では検査陽性者数は4人で、死亡者は0人であったが、国内ではなく国外で感染が広がったという理由でWHOが同年1月30日に緊急事態宣言を出したことを受けて、同年2月1日に感染症法に新型コロナウイルス感染症を規定したことが分かる。未だに病原体は単離されていないのであるから、この時点で病原体の存在は当然確認されていないし、その感染力や病原性などは評価されていない。公衆衛生法の例にあったように、流行しているから感染症が発生しているのであり、病原体が存在していると考えるのである。流行の原因が本当に病原体なのかの確認もしていないし、流行に見えている疾患が、全て同じ疾患であるのかについて確認することもしていない。全ての判断の根拠は、憶測の域を超えていないのである。
繰り返すようだが、ここで重要なのは「憶測で感染症法に感染症を規定できる」という事実である。科学的根拠がなくても、病原体の存在証明がなくても、法律に規定されれば、感染症は発生していることになるし、病原体が存在していることになる。法が科学を凌駕するのである。
我々にとってこのような非科学的な対応は、不可解で致し方ないが、上記『新型コロナウイルス感染症対応記録』の128頁には、次のように書かれている。
危機管理活動という営みは、科学ではない。アート(運用術)である。科学に基づく危機管理や、エビデンスに基づく危機管理など存在しない(この点、わが国では誤解があるようである)。危機管理の一分野である感染症危機管理も同様である。
これを書いたのは、元WHO健康危機管理官の阿部圭史氏である。このような発想が官僚や政府にあるので、我々が科学的根拠を求めても、気にも留めないような対応をしてくるわけである。危機管理は科学ではなく、宗教であり、教義に基づいて行われている。オオカミ少年が「危険だ」と騒げば、事実や科学を無視して、危機管理という教義に従って行政は動くということである。繰り返すが、全て憶測の域を超えずにである。それを許すのが感染症法であるということである。
感染症法第6条の規定により「おそれがある」と判断すれば、憶測の域を超えずに感染症法に感染症を規定できることについて述べた。また、危機管理は科学に基づかないことを政府や官僚たちが考えていることについても述べた。このように憶測で危機管理が行われるために、科学的な視点における情報収集がされないことは容易に想像でき、彼らの都合のいい情報だけが集められ、国民に流布されるのである。
危機的状況において、より正確な判断を行おうとするならば、収集する情報の質と量を求めるのが当然であり、科学的な視点で収集した情報の分析がなされるべきであることに議論の余地があるとは思えないが、政府がそう考えていないということ自体が筆者にとって危機であると考える。オオカミ少年の一言一言に振り回され、我々の生活が破壊されるようなことは断じて許してはならないと、少なくとも筆者は考える。とりわけ、マスク着用ができないことを理由に職場で隔離され、正規の業務から外された者として強く感じる。この「危機管理は科学ではない」という発言は、国民に背を向けた自分勝手な無能者の言い訳としか聞こえない。
さて、このように容易に法に規定された後、この法に基づいて行政はどのような動きになるのかについて、次節から見ていこうと思う。