邦訳資料

World Health Oranizationの記事

令和6年11月 9日作成

邦訳

JN.1の初期リスク評価、2023年12月19日


要約

以前、JN.1は、要注意変異体(VOI:variant of interest)に分類される親系統であるBA.2.86の一部として追跡されていた。しかし、ここ数週間、JN.1は複数の国で報告され続け、その有病率(prevalence)は世界的に急速に増加しており、現在ではGISAIDに報告されたBA.2.86の子孫系統の大部分を占めている。急速に拡大していることから、WHOはJN.1を親系統のBA.2.86とは別の要注意変異(VOI)として分類している。

入手可能な、まだ限定的な証拠を考慮すると、JN.1がもたらす公衆衛生上の新たなリスクは、現在のところ世界レベルでは低いと評価されている。この変異体は、他のウイルス感染症や細菌感染症が急増する中、特に冬季に入る国々でSARS-CoV-2 の症例数が増加する可能性があると予想されている。WHOのウイルス進化に関する技術諮問グループ(TAG-VE:Technical Advisory Group for Virus Evolution)と協議し、手持ちのデータを考慮した結果、現在の世界的な集団免疫とXBB.1.5ブースターワクチン接種によって生じた免疫は、有症状かつ重症の疾患(symptomatic and severe disease)に対して、この変異体に対して交差免疫(cross-reactive)を維持すると予想される。 したがって、この変異体の蔓延が、他のオミクロンの下位系統と比較して、各国の公衆衛生システムの負担を増大させる可能性は低い。しかし、冬の季節を迎える国々は、SARS-CoV-2と同時期に流行する病原体が、呼吸器疾患の負担を悪化させる可能性があることを認識しておく必要がある。

JN.1の初期リスク評価、2023年12月19日

JN.1はBA.2.86の子孫系統で、最も古いサンプルは2023年8月25日に採取された(1)。 親系統のBA.2.86と比較すると、JN.1はスパイク蛋白質にL455S突然変異が新たに生じている。

2023年12月16日現在、41カ国からGISAID ( 1 ) に提出された7,344件のJN.1配列があり、疫学調査第48週(2023年11月27日から12月3日)において世界で入手可能な遺伝子配列の27.1%に相当する。JN.1遺伝子配列が最も多く報告されている国は、フランス(20.1%、1,552件)、アメリカ合衆国(14.2%、1,072件)、シンガポール(12.4%、934件)、カナダ(6.8%、512件)、イギリス(5.6%、422件)、スウェーデン(5.0%、381件)である。

世界的に、JN.1の報告数の割合が急速に増加しており、疫学調査第48週の世界的な有病率(prevalence)は27.1%であった(表1)。これは、4週間前に報告されたデータ(第44週、2023年10月30日から11月5日)から大幅に増加している。当時、JN.1の世界的な有病率(prevalence)は3.3%であった。この急激な増加(growth)は、SARS-CoV-2の遺伝子配列が一致して共有されている3つのWHO地域、すなわち南北アメリカ地域(AMR)、西太平洋地域(WPR)、ヨーロッパ地域(EUR)のすべてで観察され、WPRでは疫学調査第44週の1.1%から疫学調査第48週の65.6%へと最大の増加が見られた。BA.2.86.1(JN.1の親系統)の一次鼻上皮細胞(hNEC:nasal epithelial cells)での複製動力学(replication kinetics)は、他のXBB由来の変異体よりも高くないことが観察されている(2)。しかし、ヒトにおけるJN.1の高い伝播性が、一次鼻上皮細胞や他の細胞型における適合性の向上とも関連しているのかどうか、また、そのうちのどれだけがスパイク蛋白以外の突然変異と関連しているのかについては、まだ明らかにされていない。

表1:SARS-CoV-2変異体の世界的な割合(2023年第44週から第48週まで)

系統 国§ 配列§ 2023-44 2023-45 2023-46 2023-47 2023-48
VOIs(要注意変異体)
XBB.1.5* 128 316,888 8.2 7.9 8.6 7.4 7.3
XBB.1.16* 119 103,516 9.6 9.0 6.6 5.6 4.2
EG.5* 93 143,675 53.7 54.1 51.7 46.5 36.3
BA.2.86* 49 5,972 4.4 4.8 5.8 7.1 5.9
JN.1* 41 7,344 3.3 5.3 10.1 16.7 27.1
VUMs(監視対象変異体)
DV.7* 40 4,635 1.2 0.9 0.9 1.0 0.6
XBB* 143 90,441 2.3 2.0 1.8 1.2 1.0
XBB.1.9.1* 118 85,640 6.7 5.4 5.5 4.3 3.3
XBB.1.9.2* 95 37,764 1.7 1.1 0.7 0.5 0.2
XBB.2.3* 107 34,573 3.5 3.4 2.5 2.3 1.6
Unassigned 95 155,778 3.4 4.2 4.2 6.4 11.9

§国数と遺伝子配列は変異体が出現してからのものである。

* 子孫系統を含むが、表で明記されているものは除く。例えば、XBB*はXBB.1.5、XBB.1.16、EG.5、XBB.1.9.1、XBB.1.9.2、XBB.2.3を含まない。

SARS-CoV-2 変異型の世界的なワクチン普及率と流通量の違いにより、集団免疫は世界的に不均一なままであり、したがって、JN.1の免疫逃避能力は検査された集団の免疫背景に依存する。 XBB.1.5およびEG.5.1で獲得した免疫からのBA.2.86.1(JN.1の親系統)の免疫逃避、ブレークスルー感染は、HK.3のような同時に流行している変異型と類似しているように見えるが、JN.1はより高い免疫逃避特性を示す(2,3)。しかし、JN.1の交差中和に関するデータは限られており、JN.1の中和が低下しているにもかかわらず、XBB.1.5の一価ワクチンによる防御はJN.1に対して有効であると考えられる(4)。WHOの技術諮問グループは、世界中の科学者を集め、積極的にこれを監視している(5)。

WHOとSARS-CoV-2進化に関する技術諮問グループ(TAG-VE:Technical Advisory Group on SARS-CoV-2 Evolution)は、BA.2.86とJN.1の抗体逃避と重症度に関する不確実性に対処するため、加盟国に対し、優先順位をつけて具体的な行動をとるよう引き続き勧告する。提案されたスケジュールは推定であり、各国の対応能力によって変化するものである:

  • ヒト血清(罹患地域を代表するもの)とJN.1生ウイルス分離株(2~4週間)を用いて中和アッセイを実施する。
  • ローリングまたはアドホックな重症度指標(4~12週間)の変化を検出するために比較評価を行う。

WHOとそのCOVID-19ワクチン組成に関する技術諮問グループ(TAG-CO-VAC:Technical Advisory Group on COVID-19 Vaccine Composition)は、ワクチン組成の更新に関する決定に情報を提供するため、COVID-19ワクチンの性能に対する変異体の影響を定期的に評価し続ける(6)。

以下のリスク評価はWHOの枠組み(7)に従っており、現在入手可能な証拠に基づいている。より多くのエビデンスや さらに多くの国のデータが入手可能になれば、定期的に改訂される予定である。

合的なリスク評価:

低い

その遺伝的特徴から、JN.1はこれまでの免疫を逃避する何らかの抗原的優位性を持っている可能性がある。 現段階の限られたデータでは、JN.1に関する利用可能な証拠は、現在流行している他のオミクロン子孫系統と比較して、さらなる公衆衛生上のリスクを示唆しない。JN.1感染症は急速に増加しており、症例数も増加している可能性が高いが、入手可能な限られたエビデンスでは、他の流行している変異体と比較して、関連する疾患の重症度が高いことは示唆されない。より多くの証拠が得られ次第、リスク評価は更新される。
使用指標 証拠  リスク度

 信頼度

増加優位性

Growth advantage

現在、41カ国から7, 7,344件のJN.1 の遺伝子配列が利用可能であり、疫学調査第48週(2023年11月27日から12月3日)において、世界で利用可能な遺伝子配列の27.1%を占めている。 これは、疫学調査第44週(2023年10月30日から11月5日)の3.3%から、JN.1の世界的な割合が急速に増加したことを示している。

 

同じ期間、JN.1の遺伝子配列の割合が最も高い国々でも同様に、これらの国々におけるJN.1 の有病率(prevalence)は、フランスの10.9%から45.5%、アメリカの2.1%から19.9%、シンガポールの1.4%から72.7%、カナダの1.0%から9.9%、イギリスの1.8%から20.4%、スウェーデンの1.8%から22.9%に上昇した。

 

この急激な増加は、SARS-CoV-2の遺伝子配列、すなわちWPR、EUR、AMRが一致して共有されているWHOの3つの地域すべてで観察され、WPRでは疫学調査第44週の1.1%から疫学調査第48週の65.6%まで最大の増加が見られた。

 

冬季に近づくにつれ、複数の国からの排水データから、地域社会におけるSARS-CoV-2感染の大きな波が指摘されている(8)が、他のウイルスや細菌感染症がかなり併発しているにもかかわらず、医療機関への圧迫には至っていない。

 

一次鼻上皮細胞(hNEC)でのBA.2.86.1(JN.1の親系統)の複製動力学(replication  kinetics)は、他のXBB由来の変異体よりも高くないことが観察されている(2)。しかし、ヒトにおけるJN.1の高い伝播性が、一次鼻上皮細胞や他の細胞型における適合性の向上とも関連しているのかどうか、また、そのうちのどれだけがスパイク蛋白以外の突然変異と関連しているのかについては、まだ明らかにされていない。

 

* see footnote for more explanations

高い 高い

抗体逃避

Antibody escape

BA.2.86 系統の親と比較して、JN.1は免疫逃避能力を著しく高めるスパイク変異L455Sを持つ(9)。L455F変異を持つHK.3のような変異体は、親であるEG.5.1変異体と比較して、感染性と免疫逃避能力が高いことが示されている(10)。

 

BA.2.86に感染したネズミの血清を用いた中和アッセイでは、JN.1に対するNT50はBA.2.86に対するそれと同程度であった。 しかし、JN.1に対するXBB.1.5およびEG.5.1ブレイクスルー感染者の血清のNT50は、HK.3(2.6〜3.1倍)およびBA.2.86(3.8倍)よりも有意に低かった(3)。

 

別の研究では、XBB.1、EG.5.1、BA.2.86.1の中和は、XBBブレークスルー感染経験者では世界的に同様であったのに対し、JN.1はBA.2.86.1に比べて高い免疫逃避特性を示した(2)。

 

JN.1は、XBB.1.5 mRNAワクチンによるブースター接種者の血清に対して2.9~4.3倍の耐性を示した(4)。

 

** 詳しくは脚注を参照。

中程度 低い

重症度と臨床的/診断的考察

Severity and clinical/diagnostic considerations

ベルギーで行われた65歳以上の患者を対象とした研究では、JN.1では非BA.2.86変異体と比較して入院のオッズに差はないと報告されている(OR: 1.15 [0.74-1.78])(11)。 逆に、シンガポールの予備データでは、BA.2.86の高齢者と若年症例では、入院リスクと重症度が低いことが示されている(12)。しかし、現在のところデータは限られている。

 

*** 詳しくは脚注を参照。

低い 低い

付録:

* 増加優位性(Growth advantage)

危険度:高い。この変異体は、SARS-CoV-2の一致した遺伝子配列データを共有しているWHOの全地域で急速に増加しており、一部の国では最も流行している変異体となっている。

信頼性: 高い。急激な増加はWHOの異なる地域の複数の国から報告されているからである。

** 抗体逃避(Antibody escape)

危険度:中程度。JN.1は、親であるBA.2.86.1系統と比較して免疫逃避を増加させていると推定されている。また、その免疫逃避は現在世界的に最も流行しているEG.5と同様であるとも推定されている。

信頼性:低い。JN.1の交差中和は限られたデータしかないため。世界各地の異なる地域におけるさらなる実験室研究が、必要であろう。それは、異なる集団免疫の背景を持つ環境において、抗体逃避のリスクをさらに評価するために行われる必要がある。

*** 重症度と臨床的考察

危険度:低い。現在のところ、この変異型に関連して疾患の重症度が上昇したという報告はない。

信頼性:低い。WHOの全地域担当者、各国、パートナー間で定期的な調整とデータ共有が行われているが、新規入院とICUデータのWHOへの報告は大幅に減少している。それ故に、報告の減少による重症例の解釈には注意が必要である。さらに、この変異体が臨床結果に及ぼす影響をさらに評価するためには、さらなる研究が必要であろう。

参考文献

1.  GISAID. Available from:
https://gisaid.org/hcov19-variants/

2.  Planas D, Staropoli I, Michel V, Lemoine F, Donati F, Prot M et al. Distinct evolution of SARS-CoV-2 Omicron XBB and BA.2.86 lineages combined increased fitness and antibody evasion. bioRxiv. November 2023.
https://doi.org/10.1101/2023.11.20.567873

3.  Kaku Y, Okumura K, Padilla-Blanco M, Kosugi Y, Uriu K, Hinay Jr. AA et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 JN.1 variant. bioRxiv. December 2023.
https://doi.org/10.1101/2023.12.08.570782

4.  Wang Q, Guo Y, Bowen A, Mellis IA, Valdez R, Gherasim C, et al. XBB.1.5 monovalent mRNA vaccine booster elicits robust neutralizing antibodies against emerging SARS-CoV-2 variants. bioRxiv. November 2023.
https://doi.org/10.1101/2023.11.20.567873

5.  World Health Organization Technical Advisory Group on COVID-19 Vaccine Composition. Available from:
https://www.who.int/news/item/13-12-2023-statement-on-the-antigen-composition-of-covid-19-vaccines  

6.  World Health Organization Technical Advisory Group on COVID-19 Vaccine Composition. Available from:
https://www.who.int/news/item/18-05-2023-statement-on-the-antigen-composition-of-covid-19-vaccines

7.  WHO. SARS-CoV-2 variant risk evaluation, 30 August 2023. Available from:
https://apps.who.int/iris/rest/bitstreams/1528680/retrieve

8.  EU4S-DEEP - Wastewater observatory for public health - Digital European Exchange Platform. Available from:
https://wastewater-observatory.jrc.ec.europa.eu/#/gis-area/3  

9.  Yang S, Yu Y, Xu Y, Jian F, Song W, Yisimayi A, et al. Fast evolution of SARS-CoV-2 BA.2.86 to JN.1 under heavy immune pressure. bioRxiv. November 2023. doi:
https://doi.org/10.1101/2023.11.13.566860

10. Kosugi Y, Plianchaisuk A, Putri O, Uriu K Kaku Y, Hinay Jr. AA et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 Omicron HK.3 variant harboring the “FLip” substitution. bioRxiv. November 2023.
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.11.14.566985v1

11. Statens Serum Institut, Denmark. Presentation at the WHO Technical Advisory Group (TAG-VE) meeting on 11 December 2023

12. Ministry of Health, Singapore. Presentation at the WHO Technical Advisory Group (TAG-VE) meeting on 11 December 2023


原典