令和7年1月6日作成

Nature Medicine

人類の健康を脅かす新型ヒト・コロナウイルスの出現


原題名:「Emergence of a novel human coronavirus threatening human health」(HTML)

著者名:Leo L. M. Poon, Malik Peiris

掲載誌:Nature Medicine

巻号頁:Vol. 26, pp. 317-319

掲載年:2020/03

 


2019年12月下旬、病因不明の「非定型肺炎」患者の集団発生が、中国の武漢で報告された。新型ヒトコロナウイルス、現在は暫定的に「SARS-CoV-2」と呼んでいるが、この疾患の原因として同定され、現在は「COVID-19」と命名されている。

コロナウイルスが、主要な新興ウイルス性疾患の脅威を引き起こす可能性があることがますます認識されるようになった。このような疾患には、呼吸器症候群のSARSとMERSがあり、最近の2例である。また、現在ヒトで流行している2つのコロナウイルス(229EとOC43)は、過去数百年以内に動物から出現している[1]。コロナウイルスSARS-CoV-2の流行は、2019年12月に始まった。2020年1月30日、世界保健機関〔WHO〕は、この事象を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言した。COVID-19の報告症例数と死亡者数は、すでにSARSやMERSのそれを上回っている。ここで、我々はこの世界的流行に関連する最近の重要な知見を取り上げる。

 

SARS-CoV-2は、臨床検体から容易に培養することができる。ウイルス分離株は現在、中国本土[2]や 、他の地域で入手可能であり、我々の研究室でも入手可能である(図1)。SARS-CoV-2は、サルベコウイルス亜属〔subgenus Sarbecovirus〕の他のコロナウイルスと遺伝的に類似している。サルベコウイルス亜属は、βコロナウイルスのクレード〔分岐群〕である。このクレードは、SARS〔重症急性呼吸器症候群〕(SARS-CoV)の原因となるコロナウイルスや 、コウモリで発見された他のSARS-CoV様コロナウイルスで構成されている[3,4]。コロナウイルス間の組換えは一般的であり、SARS-CoVはコウモリのサルベコーウイルス〔sarbecorviruses〕間の組換えであると信じられている。興味深いことに、SARS-CoV-2の全ゲノムは、2013年に検出されたコウモリコロナウイルスのゲノムと非常に類似している(96%以上の配列同一性)[4]。このことは、次のことを示唆している。SARS-CoV-2の直系の祖先が、少なくとも数年間はコウモリの間で循環していた可能性がある。

 


図1:香港大学で分離されたSarS-coV-2を示す電子顕微鏡画像。

ジョン・ニコルズ〔John Nicholls〕(病理学部門)より提供。

 


(中略)

参考文献

  1. Corman, V. M. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 113, 9864–9869 (2016).
  2. Zhu, N. et al. N. Engl. J. Med. 382, 727–733 (2020).
  3. Lu, R. et al. Lancet 395, 565–574 (2020).
  4. Zhou, P. et al. bioRxiv https://doi.org/10.1101/2020.01.22.914952 (2020).
  5. Li, Q. et al. N. Engl. J. Med. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2001316 (2020).
  6. Tian, X. et al. Emerg. Microbes Infect. 9, 382–385 (2020).
  7. Wan, Y., Shang, J., Graham, R., Baric, R.S. & Li, F. J. Virol. https://doi.org/10.1128/JVI.00127-20 (2020).
  8. Chen, N. et al. Lancet 395, 507–513 (2020).
  9. Chan, J.F.-W. et al. Lancet 395, 514–523 (2020).
  10. Rothe, C. et al. N. Engl. J. Med. https://doi.org/10.1056/NEJMc2001468 (2020).
  11. Holshue, M.L. et al. N. Engl. J. Med. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2001191 (2020).
  12. Huang, C. et al. Lancet 395, 497–506 (2020).
  13. Wu, J.T., Leung, K. & Leung, G.M. Lancet https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30260-9 (2020).
  14. Wong, J. Y. et al. Epidemiology 24, 830–841 (2013).
  15. Choe, P. G. et al. Emerg. Infect. Dis. 23, 1079–1084 (2017).