第1章 分離培養試験

6 感染研のトリック

令和6年1月13日公開

分離手品のトリックを理解できたところで、そのトリックが実際にどのように活用されているのかをここで見ていきたい。

ここでは国立感染症研究所が出している分離マニュアルを取り上げることにする。感染研は地方衛生研究所に対して『「感染研・地衛研専用」SARS-CoV-2  遺伝子検出・ウイルス分離マニュアル  Ver.1.1』というマニュアルを配付している。このマニュアルは地衛研に向けて、感染研が開発したPCR検査の使用法や、分離試験の方法について書かれている。

感染研、分離マニュアル
感染研、分離マニュアル

分離手順

以下に、マニュアルに記載された分離手順を引用する。赤字は筆者によるものである。

15頁

【ウイルス分離法】

1.検体の採取と保存

「2019-nCoV(新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル」(国立感染症研究所 HP)最新版を参照のこと。

喀痰検体の扱いについては、別添の「喀痰検体の前処理法」を参照のこと。

2.材料、機器、器具および試薬

VeroE6/TMPRSS2 細胞(JCRB 1819)、CO₂ 培養器(37℃、5%CO₂)、DMEM(Sigma D5796または類似品)、ウシ胎児血清(FCS、非働化済)、Penicillin-Streptomycin 溶液  (和光純薬168-23191 または類似品), Geneticin (G418) (Sigma A1720 または類似品)、トリプシン(コージンバイオ 16208004 または類似品)、PBS(GIBCO 10010023 または類似品)、ゲンダマイシン(Sigma G1397 または類似品)、アンホテリシン B (GIBCO 15290-018 または類似品)、セルカルチャーフラスコ、ディスポーザブルピペット、マイクロピペット、保存チューブ。

3.  細胞の継代

3.1  増殖用培地の調整

DMEM に FCS を終濃度約 10%になるように添加し、ペニシリンストレプトマイシンを終濃度 100 unit/mL あるいは 100 ug/mL になるように添加して調整する。細胞の維持のためには G418  を 1 ㎎/ml の濃度で添加しておく。

3.2  細胞の起こし方、および維持

  1. 凍結細胞を適量の増殖用培地を含んだフラスコに添加する(T-25  であれば 5ml 等)。
  2. 細胞がコンフルエントになったら PBS を用いて細胞表面を洗浄したのち,EDTA-Trypsin 液を用いて細胞を分散する。
  3. 増殖用培地を用いて目的の細胞濃度に調整した細胞浮遊液を作成し,  37℃,5〜7日間隔で継代培養する(T-75 であれば 10ml)。通常の継代は 4-5 倍程度の希釈にする。用途に応じて希釈を変更する。

4.  ウイルス分離

4.1  操作上の注意

ウイルス分離は BSL3 でおこなう。法令を遵守し、各施設におけるバイオセキュリティに関する規定に則って作業を行うこと。

遺伝子検査により陽性になった検体を用いる場合、QuantiTect Probe RT-PCR kit およびLightCycler480 を用いた場合の Cp 値がおおむね 32 未満の検体で分離できる可能性がある。それ以上の Cp  値の場合は接種量を増やすことで分離できることもある。

4.2  ウイルス分離方法    

  1. 基本的には検査材料を 3,000rpm,15 分間遠心沈澱した上清を出発材料とするが、状態によってはそのまま接種して構わない。
  2. (オプション)検査材料の 10 倍階段希釈(10-0〜10-2)を作製する。
  3. あらかじめ単層培養(24~96 穴プラスチックプレート)させた VeroE6/TMPRSS2 細胞に検体 50~100μl 接種し,CO₂インキュベーター内で 1-2 時間静置する。検体中にゲンダマイシン(50ug/mL)、アンホテリシン B(2.5µg/mL)添加しておいても構わない。Cp  値次第でウェルの大きさ、接種量の調整をして構わない。
  4. 吸着後、検体を除き、DMEM で 2 回洗ったのち、1~2%FCS-DMEM を添加し、CO₂インキュベーター内で培養する。2 回目の洗い液を保存しておく。
  5. 2~3 日の培養で細胞融合などの CPE が  観察された場合、培養上清を 1000rpm で 5 分遠心し、回収する。
  6. 洗い液、培養上清を用いて上記リアルタイム RT-PCR 法による遺伝子検出を行い、洗い液中のウイルス RNA 量と比較して培養上清中のウイルス RNA 量が著しく上昇(おおむね1000 倍以上)していれば分離成功とみなせる。ウイルス液は-70℃以下で保存する。

解説

①培養細胞を培養する。

VeroE6/TMPRSS2 細胞(JCRB 1819)、CO₂ 培養器(37℃、5%CO₂)、DMEM(Sigma D5796または類似品)、ウシ胎児血清(FCS、非働化済)、Penicillin-Streptomycin 溶液  (和光純薬168-23191 または類似品), Geneticin (G418) (Sigma A1720 または類似品)、

培養細胞は細胞変性効果が起こりやすいVelo細胞を使用している。血清を用いるために培地にDMEMを選択し、ウシ胎児血清と抗生物質にペニシリン・ストレプトマイシン、及びG418を使用している。

DMEM に FCS を終濃度約 10%になるように添加し、ペニシリンストレプトマイシンを終濃度 100 unit/mL あるいは 100 ug/mL になるように添加して調整する。細胞の維持のためには G418  を 1 ㎎/ml の濃度で添加しておく。

上記材料を用いて培養するが、ここで重要なのがウシ胎児血清を10%にしているということである。ランカ博士の対照実験では、この条件で細胞変性効果は起こらない。

②検体を接種する。

3) あらかじめ単層培養(24~96 穴プラスチックプレート)させた VeroE6/TMPRSS2 細胞に検体 50~100μl 接種し,CO₂インキュベーター内で 1-2 時間静置する。検体中にゲンダマイシン(50ug/mL)、アンホテリシン B(2.5µg/mL)添加しておいても構わない。Cp  値次第でウェルの大きさ、接種量の調整をして構わない。

 

4) 吸着後、検体を除き、DMEM で 2 回洗ったのち、1~2%FCS-DMEM を添加し、CO₂インキュベーター内で培養する。2 回目の洗い液を保存しておく。

ここが重要である。検体を接種した後に、ウシ胎児血清濃度を10%から1~2%に減じている。感染研の分離手品のトリックは、血清濃度を下げることである。

対照実験を行っているか?

分離試験の対照実験を行っているかを令和4年5月8日付けで感染研に、以下の内容のメールで確認した。

質問1
なぜFCSを1~2%に下げるのですか?

質問2
「栄養分の欠乏」で細胞変性効果が起きているという仮説に反証する実験結果はありますか?
すなわち、対照実験はされていますか?

質問3
質問2で「いいえ」の場合、
今後対照実験をして「分離マニュアルの方法が正しい」ことを証明していただけますでしょうか?

このメールに対する回答は得られなかった。つまり、無視された。

そこで、以下の内容で情報公開請求を行った。

「SARS-CoV-2  遺伝子検出・ウイルス分離マニュアル  Ver.1.1 」において次のような趣旨の内容が記載されています。
P15
「3.細胞の継代」において培地をDMEM+10%FCSでベロ細胞を培養しています。
P16
「4.2 ウイルスの分離方法」4)で、培地をDMEM+1~2%FCSに変更しています。

このことから、分離マニュアルの方法で細胞変性効果が起こる原因が、ウイルスの感染とは限らず、FCS濃度を下げたことによる「栄養分の欠乏」の可能性があることから次の文書の開示請求をします。
①FCS濃度を1~2%に下げる理由が書かれた一切の文書。
②分離培養において検体を接種せずFCS濃度を1~2%にした状態で細胞変性効果が起こらないことを証明する一切の文書。

この請求の結果は、文書を保有していないという理由による不開示であった。

以上のことから、感染研は対照実験を行っていない可能性が極めて高い。

まとめ

感染研の分離マニュアルより、感染研の分離手品のトリックを明らかにした。ランカ博士が対照実験で示したように、血清濃度を下げるトリックが使われていた。このトリックを感染研に指摘したが、感染研は指摘を無視して、質問に答えなかった。情報公開請求をしたが、対照実験結果が記載されている文書を保有していないという理由で開示しなかった。

ランカ博士の対照実験の結果から考えて、ほぼ間違いなく感染研の分離方法は、血清濃度を下げることが原因で起きていると言える。


5 分離培養の対照実験
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