令和07/01/04作成
令和07/01/07更新
原 題:
著 者:J Macfarlane, W Holmes, P Gard, R Macfarlane, D Rose, V Weston, M Leinonen, P Saikku, S Myint
掲載誌:Thorax
巻号頁:Vol. 56, Issue 2, 109–114
掲載年:2001/02
背景
以前は健康であった成人の急性下気道疾患は、通常、急性気管支炎と診断され、病因を確定することなく抗生物質で治療される。ほとんどの症例において、ウイルス感染が原因であると考えられている。我々は、この疾患の発生率、病因、転帰について調査した。
手法
以前は健康であった成人で、郊外に住む安定した集団から、下気道疾患で1年以上受診している患者群を調査した。最初の6ヵ月間の詳細な調査により、あらかじめ設定された直接的および間接的な感染マーカーが同定された。感染の証拠は、臨床症状、感染の間接的マーカー、抗生物質の使用、および転帰との関連で評価された。
結果
受診は非常に多く、特に若い女性(年間70/1000人の割合。以前は健康であった女性で年齢層が16〜39歳)で、主に冬季に多い;638人の患者が受診し、そのうち316人を調査対象とした。病原体を同定した症例は173例(55%)である:バクテリアが82例(肺炎球菌〔Streptococcus pneumoniae〕が54例、インフルエンザ菌〔Haemophilus influenzae〕が31例、モラクセラ・カタルハリス〔Moraxella catarrhalis〕が7例)、非定型菌〔atypical organisms〕が75例(肺炎クラミジア〔Chlamydia pneumoniae〕が55例、肺炎マイコプラズマ〔Mycoplasma pneumoniae〕が23例)、ウイルスが61例(インフルエンザ〔Influenza〕が23例)であった。79例(24%)には間接的な感染の証拠が認められた。バクテリア性感染および非定型感染は、胸部X線写真の変化およびC反応性蛋白の高値と相関していた。しかし、(a)感染の存在の有無に関する一般開業医〔GP:general practitioner〕による臨床的評価、(b)局所的な胸部徴候以外の臨床的特徴、および(c) 転帰、すなわち適切な抗生物質が処方されたか否か、とは相関していなかった。
結論
患者の50%以上が感染の直接的および/または間接的証拠を有しており、最も一般的なのは細菌性病原体および非定型病原体であるが、転帰は同定された病原体とは無関係である。多くの患者は抗生物質なしで改善し、調査はこれらの患者の治療管理に役立たない。一般開業医は、この自己限定性疾患の原因と通常の転帰を患者に説明し、安心させることができる。
見出し語::成人下気道疾患;急性気管支炎;病原体;一般診療〔general practice〕
急性呼吸器疾患の発症〔Episodes〕は、英国において一般開業医(GP)を受診する最も一般的な理由である[1]。その多くは「急性気管支炎」と呼ばれ、感染症と診断されるが、真の病因についてはほとんど知られておらず、抗生物質による治療が行われている[2]。多くの研究で全体的な有益性はほとんどないことが示されているにも関わらずである[3]。市中感染による下気道疾患(LRTi)〔lower respiratory tract illness〕や急性気管支炎〔acute bronchitis〕の原因について詳しく調査した研究はない。しかし、一般的にウイルス感染が最も重要な原因であると考えられている。このため、この一般的な症状に対する治療管理戦略〔management strategies〕について、証拠に基づく助言を提供することは困難である。
我々は、1年間の前向き研究について述べる。この研究では、以前は良好であった成人の限定〔defined〕集団におけるLRTiの発生率、病因、転帰について検討した。
(中略)
今回の観察研究では、転帰はバクテリア性病原体や非定型病原体の存在の有無や、病原体が反応するはずの抗生物質の処方とは無関係であった。以前にも、再受診することと初診時の抗生物質の使用とは無関係であることを明らかにしている[15]。急性気管支炎に対する抗生物質の役割に関する体系的レビューも同様に、こう結論付けている。全体としてみれば、抗生物質は諸症状の自然経過にはほとんど影響を及ぼさず、個々の群におけるわずかな有益性は、抗生物質による副作用によって打ち消されている[3]。
しかし、抗生物質が急性気管支炎や下気道疾患の患者に全く効果がないとするのは不適切であり、有益ではない[29]。抗生物質が有効な患者群が存在することは明らかである。困難なのは、初期診療の場でそのような患者を特定することである。課題〔challenge〕は、実用的で証拠に基づいた指針を打ち出すことである。その指針は、一般開業医にとって有用であろう。残念ながら、私たちの研究では、明らかにできなかった。全体的にみて、臨床的判断や特定の症状や徴候が転帰に関連するということを断言することはできない。しかしながら、局所的な胸部徴候とX線写真上の肺炎との間に強い相関があることから、多くの一般開業医が下気道疾患の患者にそのような徴候がある場合に抗生物質を処方している実践は、十分な根拠があることが示唆される[2]。
結論として、本研究は、次のことを確認した。下気道疾患が、以前は健康であった成人が一般開業医を受診する非常に一般的な理由であること。したがって、この疾患には、合意された治療管理〔agreed management〕が有用であることである。下気道疾患は感染によって引き起こされる。バクテリア性、非定型、ウイルス性の病原体が半数以上の症例で同定でき、4分の1では感染の間接的な証拠がある。局所的な胸部徴候を除けば、身体診察の所見も、一般開業医の総合評価も、感染の証拠を示してその患者が確実に感染症であると同定することはできない。ルーチンの検査をほとんど行わないという通常の診療は、十分な根拠があるように思われる。下気道疾患の転帰に関する我々の観察結果は、次のような見解を支持するものである。一般的に抗生物質は、あるいは特定の病原体に特異的に抗生物質を投与しても、ほとんどの患者の転帰に影響を及ぼさず、ほとんどの患者は自然に回復する。